PM8006Cata  もはや比べようもない
 22年ぶりにプリメインアンプを替えてみて、SACD を再生したときのホールの《雰囲気》感っぽさを感じたり、通常の CD でも優秀録音のものは、SACD に劣らず同じように《雰囲気》、つまりホールにいるような空間が出現したように感じたことを前に書いた
 それは、スピーカーからの直接音が少しおとなしくなった(あるいは録音で収まっている間接音がしっかりと再現できている)ためなんじゃないかと思う。

 以前アンプを替えたときと異なり、今回はアンプだけの交換だから、この変化はアンプによって現れたものだ。

 では、今まで使っていた LUXMAN のアンプより、それよりも少し安い PM8006 の方が優秀なのか?

 それは何とも言えない。新品時の LUXMAN のアンプと比較することができないからだ。
 経年劣化でもともと持っていた力を出し続けていたというのは、あまり考えられない。
 なので、ここで優劣をつけることはできない。

  30年以上前に《できあがっていた》?
 ただ、ここで私は一つ気になることがある。
 しばしばネットで見られる《アンプはむかしの製品の方が良くできている》と唱えている人がすごく多いことである(もちろんある一定レベル以上の製品ということだが)。

 『教えて!goo』とか『YAHOO! 知恵袋』、あるいはそれ以外のブログなどでは、こういう主張が見られる。

 アンプは音を増幅するもので、その技術ははるか前に確立している。新しい技術なんてない。だから同じ価格帯なら、物価の安かった昔に作られた機種の方が良い部品を使っているし、いまのアンプはいろいろなところでコストカットしている。だから、むかしのアンプの方が音が良い。

というのが、だいたい共通している理由。ただし、“高級品なら”っていう条件が書かれていることも多い。

 私が使っているアンプは先代も今回のも高級とまではいかない。
 ミドルクラスである。
 だから当てはまらないのかもしれない。

 とはいえ、アンプの技術はとうの昔に確立しているので、技術革新などないっていうのはほんとうだろうか?

 こういう説明も目にした。

 もし、技術革新があれば、メーカーはもっとそのことを宣伝するはずです。

20190511Audio2  革新なしってことはない
 いや、いま売られているアンプのカタログを見ると、いろいろと売り言葉が載ってるんですけど……

 PM8006 のをちょっと抜き出すと、

 プリアンプ&ボリューム回路の刷新により、空間表現力とディテールの再現性を飛躍的に高めたミドルクラスプリメインアンプ

・電流帰還型プリアンプ
 フルディスクリート構成の電流帰還型増幅回路をプリアンプ部とパワーアンプ部に採用。ハイスピードでS/Nが高く、低歪率(テイワイリツ)という特徴を備える非常に優れた増幅回路です。

・新開発デジタル制御ボリューム回路
 チャンネル間のクロストークとギャングエラーを極小化するために、可聴帯域外に至るまで優れた特性を備えるJRC製ボリュームコントロールICを新たに採用。機械式ボリュームでは構造上避けられない左右チャンネル間のクロストークや音量差が生じないため、空間表現力を大きく向上させることができます。

 注) クロストーク 伝送信号が他の伝送路に漏れること。混線。

・45Aを超える瞬時電流供給能力
 パワースペックが同じであっても、実際のスピーカードライブ能力は個々のアンプで異なります。マランツは、アンプがスピーカーに瞬間的に供給できる電流の量の差がその原因であると考えています。PM8006は、電源部の強化やショート・パワーライン・レイアウトの採用、回路のディスクリート化、低インピーダンス化など、回路全体の最適化に加え、パワートランジスタ、ドライバートランジスタおよび出力段用電源のダイオードの電流容量の向上によって、45Aを超える瞬時電流供給能力を実現。

 注)ディスクリート 回路において、集積回路(IC)を使わず、ひとつひとつ部品を選んで使っているということ
                                etc,etc…… 


 十分、宣伝してくれているではないか!

 またまた登場させてしまうが、麻倉怜士に言わせれば(「オーディオの作法」:SB新書)、

 ……オーディオメーカーの製品カタログ。これは「ほとんど役に立たない」と考えていいでしょう。どういう新素材を開発したか、どんな新方式の電気回路や構造を採用しているか。誇らしげに記されている能書きは、一度さらっと流し読みをしたら、すべて忘れてしまって構いません。……


ってことになってしまうのだが……

 もっとも、それに続いて、


 ここで言わんとしているのは「オーディオ選びはカタログだけでは絶対にできない」ということです。


とは書いているが……


  ある種のノスタルジーもあるのでは?
 ネットで見た、次の記述がいちばん客観的で正しいような気が私はしている。

 古いアンプをきちんとメンテナンスして使うならのなら、むかしの方が良いと言えるかもしれません。というのも、いまと比べると80年代には今では考えられないような採算度外視で作られたアンプがたくさんあったからです。単にむかしのアンプは高くて良いものだと言ってるだけでは意味がありません。きちんと整備すると、むかしのアンプの方が良い音がするということもあるでしょう。

 最初に書いたように、もし私が LUXMAN のアンプを定期的にオーバーホールして使っていれば、PM8006 に替えたときに、音に物足りなさを感じたのかもしれないが、それはもう比べようもない話だ。

 むかしのアンプの方が良かったというのはある意味正しいだろう。けちらないでパーツを投入している機種ならば(私が使っていた AIWA のカセットデッキを修理したとき、この機種のように良いパーツを使って製品を作ることはもういまではできないと、修理に来た人が言っていた。1990年ころの話である。そのデッキは1979年ころに発売されたAD-F70Mだった)。しかしだからと言って、いまのアンプがむかしより悪いってことはないんじゃないか?私はそう思っている(新旧の価格変動を考慮しなきゃならないが)。 続く……

 ところでアンプを替えて、じゃあどの SACD(ハイブリッド)をかけても、部屋の空気が変わるように感じるかというと、そうではない。これまたもともとの音源によるようだ。

 先日再生してみたマリナー指揮によるドヴォルザーク(Antonin Dvorak 1841-1904 チェコ)の「自然と人生と愛(Priroda, zivot a laska)」は、これまた、それまでに感じなかった豊かな音場が繰り広げられ、はっとさせられた。降圧剤を飲んだ後でよかった。

♪ 作品情報 ♪
【作曲】 1891年(第1,2曲),1891-92年(第3曲)
【初演】 1892年・プラハ
【構成】 3曲
     1. 序曲「自然の中で」Op.91,B.168(約13分)
     2. 序曲「謝肉祭」Op.92,B.169(約10分)
     3. 序曲「オセロー」Op.93,B.174(約17分)
DvorakKarnevalMarriner【編成】 orch(picc 1,fl 2,ob 2,E-H 1,cl 2,B-cl 1,fg 2,hrn 4,trp 2,trb 3,tuba 1,timp,打楽器各種(大太鼓,シンバル,タンブリン,トライアングル),hp 1,str)

♪ 作曲家情報 ♪
こちらをご覧ください

 
♪ 紹介したディスク ♪
 マリナー/アカデミー・オブ・セント・マーティンズ・イン・ザ・フィールド。
 1990年。Capriccio。