
音量を得るためのパワーの倍々ゲームに苦悩した私は、セコマでカツ丼か豚丼か迷った挙句、豚丼の、それも温玉入りを選んだ。そのように選択したのは平成最後の日の北海道新聞に載っていた映画案内での『半熟』が潜在意識に残っていたからではないかと思いつつ、じゃあ音量をがまんすれば半々ゲームになるんじゃんってことに気づいた。
4dB低下したのに、ボリュームつまみは……
B&Wのスピーカー・686S2を使って1年余り。その前に使っていたKAPPA80の出力音圧レベルは89dBであった。686S2よりも4dB高いことになる。
KAPPAのとき、プリメインアンプのボリュームの位置は、それなりの音を出すときでも時計の短針の9時前後で聴いていた。音量を上げたときでも10時以上にすることはなかった(音が大きくなりすぎるからだ。これは戸建ての自宅のときもそう)。
1年ほど前に686S2に替えたあと、ボリュームの位置はどうなったか?
9時半から10時あたりになった。同じくらいの音量を得るために、ボリュームの位置を上げたことになる。
ただ、これが89dbの出力音圧レベルから85dBとスピーカーの能率が下がったからだとは単純には言えない。
出力音圧レベルとインピーダンスの2つの要素がボリューム位置を変えさせたことになるが、しかし、能率が3dB下がるとアンプの出力は2倍必要になるはずなのに、同じくらいの音量を得るのに動かしたボリュームつまみの角度の差はわずかなものだ(ボリュームの回転角と出力の値は正比例するわけではないが)。
さらに言うと、出力音圧レベルというのは無響室でスピーカーの正面1mのところで1Wのパワーを加え、300Hz、400Hz、500Hz、600Hzの4つの音の音圧が何デシベルかを測定し平均したものだそうで、これ以外の周波数の音圧がもっとあるスピーカーなら理論値よりも能率が高く聴こえることになる。
ちなみに、これが686S2の周波数特性である。
そこで今回、プリメインアンプのメーターをきちんと観察してみた。なんと、初めて実用的にメーターを利用したことになる。
ミュンシュ指揮ボストン交響楽団によるサン=サーンスの交響曲第3番。その第2部の後半部、オルガンが「ジャーン」と入る箇所からを、2mほど離れた位置で、それなりの大きさの音量で-これ以上上げたら近隣から文句がくるかもってくらい。なので数分で実験は終了-かけてみた。もちろんスピーカーは出力音圧レベル85dBの686S2である。
オルガンの強音、シンバルに大太鼓……。フルにオーケストラが鳴っているときでも、メーターの針が0.7Wまで振れることはない。
つまり出力は1Wもないのである。ということは、十分大きな音が鳴り響いているにもかかわらず、リスニング・ポジションでの実際の音の大きさは80dBもないということになる。
瞬時のピークを想定して、アンプの出力に10倍の余裕を見たとしても10Wも要らないくらいである。
さらにもう少しボリュームを上げてみる。
自分でもうるさく不快に感じる音量だ。しかし、針が2.5Wまで振れることはなかった。これも同様に、瞬時のピークのために余裕を考慮したとしても、25Wまでも出力は要らないということになる。
現行使っているこのアンプの出力は70W(8Ω)。
なお、ピークメーターの目盛りについてだが、この場合の0dBというのは出力の減衰がないとき、つまり最大出力である70Wが出ているときに0dBを指すようにできている(出力音圧レベルのdBとは別物)。
購入を検討しているPM8006も70W(8Ω)である。
こと出力に関しては現行機種と同じ。
では音の質はどうか?
私が『マルチメディア札幌』でいくつかのスピーカーを切り替えて試聴した限りではPM8006はとても良い音を出していたし、倍以上の価格がするPM-12と歴然とした差があるとは感じなかった。むしろほとんど違いなく聴こえたと、正直に白状しよう。
それに、PM8006クラスのアンプであっても、『良くないアンプ』であるはずがない。
大音響になると70Wも100Wも大差ない?
PM-12の(そしてもう一つの候補LUXMANのL-505uXIIも)出力は100W(8Ω)である。
いまいちど、出力に余裕のあるアンプの方が良いという考え方に立つと-それはまぎれもない事実ではある。ただバカでかい出力のアンプなら消費電力の問題も出てくる-、出力70Wの現行機種やPM8006より、100Wのアンプの方が有利そうだ。
が、前回の計算を思い出してほしい。
と言っても、思い出せないだろうから読み返してほしい。と促しても実行に移さないだろうからもう一度書くが、私の通常のリスニング・ポジションで89dBの音量を得るにはアンプの出力は8W必要で、瞬時の音の爆発に備え、余裕としてその6倍の出力を確保しておくとしてもアンプの出力は48Wあれば十分だいうことになる。
しかし欲を出して、あるいは将来けっこう広い部屋でもっとスピーカーから離れて聴くことを想定して、スピーカーから2m半の位置では89dBではなく92dBを得たいとなれば16Wの出力が必要。そしてピーク時の余裕で6倍を確保するとなると、96W。70Wのアンプでは出力不足。100Wのアンプでもギリギリである。
ということは、こと出力だけに関して言えば、70Wのアンプも100Wのアンプも大きな差はないということになる。
瀬川氏は、“できるだけ出力に余裕がある良いアンプを使うにこしたことはない”としながらも、“3dBというわずかな音量の差が、パワーでは2倍または1/2になるのだから、逆に、最大音量を3dBだけ、つまりほんのわずかだけ我慢すれば、必要なパワーは半分で良い、という理屈の方を重視ていただきたい”、“パワーの面からアンプを大幅にグレイドアップしたいのなら、少なくとも2倍以上の出力の差をつけなくては無意味”と書いている。
私の聴き方の場合だと、上の実験でも1Wも出ていなかったではないか。
方向性は決まった。
PM8006が私にはふさわしい。
もう一度、最終確認(試聴)をして決男子用断しよう。
ペンデレツキの「パルティータ(Partita)」。
なぜかは ↓ を。
♪ 作品情報 ♪
【作曲】 1971年
【初演】 1972年・ロチェスター
【構成】 単一楽章(約20分)【編成】 電気増幅されたcemb・cb・g, hp, 室内orch

クリシュトフ・ペンデレツキ(Krzysztof Penderecki 1933- ポーランド)。
ポーランドの前衛音楽の第一人者。ブーレーズの手法による12音技法から出発し、1960年代から新しい音響素材の探求に入る。在来の楽器の特殊な奏法、さまざまな発音体を用いること、人声の新しい使用、音のかたまりで表現するトーン・クラスター、立体的音楽構成などを試み、それらと宗教的題材の結合によるユニークな作品を生み出したが、'70年代からは伝統的・保守的形式への復帰もみられる。
(井上和男 編著「クラシック音楽作品名辞典」(三省堂)による)
2009年録音。NAXOS。