笑う2人
昨日の記事に出てきた芥川也寸志(Akutagawa,Yasushi 1925-89 東京)の「交響管弦楽のための音楽(Musica per Orchestra Sinfonica)」(1950)。
NHK創立25周年記念管弦楽曲懸賞で特賞をとった作品である。なお、「交響管絃楽のための音楽」と表記されることもあるが-発表当時はそうだったのだろう-ここでは“弦”を使うことにする。
これまでの“感動史”の流れからは時代がとぶが-でも、年を追ってなんて一言も言ってないもんね-札幌交響楽団第283回定期演奏会(1987年7月16日)で、音楽監督・岩城宏之がプログラムの1曲目でこの曲を取り上げた(この日のような構成のプログラムも、岩城時代になってから、ときおり組まれるようになったものだ。なお、この日は当日になって、バーバーの「弦楽のためのアダージョ」が追加され、3曲目に演奏された)。
ついでに言うと、この前の月の定期はシャローンによるマーラーの5番に大感動したのであった。
この日のプログラムノーツには岩城と芥川の対談が載っていて、「交響管弦楽のための音楽」についてこう話している。
岩城 レコードは何種類くらいあるんですか?
芥川 さあ。サインしてくださいなんて持ってきたの見て、初めて見るなんていうのがあるね。故森正さんが東京交響楽団でやったレコードが一番良かったような気がします。森正さんはよく演奏してくれた。小沢征爾が難曲だ、難曲だと言って出だしのテンポが決まらないのね。速すぎたり遅すぎたり。
岩城 僕のテンポは決まってる。実は昔、サントリーのコマーシャルでヘルメス・ジンの曲があった。あの「シャ、シャ、シャ、シャ、 ジン、 ジン ヘルメス・ジン」という曲のテンポでやればピッタリなんですよ。いつかこのことを芥川さんに言ったら、おこってましたよね。
芥川・岩城 (笑)
この曲の出だしの部分がこれ(掲載譜は全音楽譜出版社のスコア)。
ヘルメス・ジンの曲がどんなもんかはしらないが、そして“僕のテンポ”を芥川がどう思っていたのかわからないが、この日の演奏は、のちに聴いた他の演奏とほぼ同じだったので、うまく指示通りで来てたのだろう(このころにはFM北海道(AIR-G)が「札響アワー」という番組を放送しており、定期演奏会の録音をエアチェックできる恩恵にあずかれるようになっていた。つまり、定期でやった演奏を、繰り返し聴けたのだ)。
大笑いする2人
また、この曲の初演(1950年3月21日、日比谷公会堂、近衛秀麿/NHK交響楽団。ラジオで生中継された)のときのエピソードをこう語っている。
岩城 うわさで聞いたのですが、第2楽章のトロンボーンから始まるところでシンバルが2回鳴ったんですって?
芥川 3回。
岩城 3回?
芥川 ほんとは1発なんだけど、アタッカ・スピードと書いてあるので、近衛さんがすぐやったらシンバルは鳴ったけどトロンボーンが出ない、ページめくりが間に合わなくて。2度目は弱音器を取るのが間に合わなくて、3発目にやっと出たわけ。私の先生の伊福部昭さんが放送聴いてて、「先生いかがでしょうか?」って聞いたら「あそこのシンバル、3発はちょっと多いんじゃないか。」
岩城・芥川 ハッハッハ
ハッハッハ、かい。
しかもこの演奏会に、高校生の岩城は行ったと言っている。覚えてないってことはあるかもしれないが、行っているのに「うわさで聞いた」って、ちょっとヘンな感じ。
ま、それはいいとして、曲は2つの楽章からなり、第1楽章と第2楽章は続けて演奏(アタッカ)される。
第2楽章の出だしはこうである。
で、岩城のテンポがどうとか生意気なことを書いたが、この日初めて聴いた「交響管弦楽のための音楽」がすこぶるよかった。それまで芥川の曲は聴いたことがなかった。
この日の夜をきっかけにして、私は芥川に興味を持つようになった。
昨日の記事で載せた片山氏の文にあるように、芥川は伊福部昭に大きな影響を受けたとされている。
が、伊福部昭のように土っぽくない。
どこか甘美で、ちょっぴりおセンチな感じで、でも心地良い。
そこが橋本國彦の影響によるところなのだろう。
私は橋本の書いた音楽を聴いたことがないのでその影響度のことはわからないが、フランスのエスプリと土俗的な民族意識が融合した音楽、それが芥川の作風ということになるのだろう。
やはり、ここでは作曲者自身が振った演奏を聴いておきたい。
芥川也寸志/新交響楽団による1986年ライヴを。fontec。
ところで、この1987年の4月に私は結婚した。
それまでの1人から、妻と2人で札響定期会員になるべく、2人並びの席で申し込んだ。
もちろん「あたしたち、結婚しました!」なんてことは一言も伝えていない。
が、会員証が送られてきたときには、当時の事務局にいたKさん(女性)から「ご結婚、おめでとうございます」というメッセージが。
同じ姓の男女が並びの席で申し込み。しかも私自身は長い年数にわたって1人で会員だったので、結婚したことがわかったのだろう。女性ゆえの気づきかもしれない。男性なら、「おっ、妹がいたのか」とか、あるいは事務的に処理されただけかもしれない。
だが、些細なことかもしれないが、こういうちょっとした心遣いがまた札響ファンを作っていくんだろうな、と思った。


