知りもしないのに部屋にはポスター
再び私が札響の定期会員(友の会会員)になり、定期演奏会に通うようになったのは1974年12月10日の第144回から。
この日の会場はなぜか札幌市民会館ではなく北海道厚生年金会館。たぶん市民会館は改修か何かが行なわれていたのだろう。
指揮はテオドール・グシュルバウアー。
この指揮者の演奏を聴くのを楽しみにしていた。
というのも、私の部屋には等身大ではないものの、大きな彼のモノクロのポスターが貼ってあったからだ。
右手は指揮棒を持って、左手は鼻の下にあてられていた。レコーディング風景らしく、ラフな服装だった。
このポスターは、近所のレコード店でLPを買ったときにもらった。
廉価盤しか売ってないくせに、つまりグシュルバウアーのディスクなんて置いてないのにポスターを配るなんてけっこう大胆というか、
何も考えてない。
という私も、ポスターを貼ってはいるものの、彼の指揮した演奏は聴いたことがなかった。
そんな彼が札響を振るのである。
そしてまた、当時の私はご多分に漏れず、外国人演奏家をありがたがる傾向にあった。シュヴァルツではない、初めての外国人指揮者だ。
なんだかすごい体験をするような気持だった。
このころグシュルバウアーはモーツァルトの交響曲第40番と第41番のレコードをリリースしていた。
こういうときは演奏旅行に出かけることがある。
LPが売れるように、である。
プログラムには第41番「ジュピター」が入っていた。
どの曲の演奏も派手さはないが、よく歌われていたと思う。
しかし、私のグシュルバウアーの演奏はこのときだけ。
その後、あまり名前をみかけることもなかった。
音楽之友社の「指揮者のすべて」(1999年第3刷)で、梅沢敬一氏はこう書いている。
グシュルバウアーの音楽は、ウィーンの伝統を保った穏健な中庸な指揮と言っていいだろう。安定して柔軟で清新で暖かさがある反面斬新さは感じられない。その特質はデビュー当時のモーツァルトの声楽作品集で見事に発揮されていた他、シューベルトの交響曲第9番や「ロザムンデ」全曲にもウィーン風の優美さが顕著であった。ピリスとのモーツァルトのピアノ協奏曲にも感覚の良さがあったが、その後録音には恵まれず、重量感のあるレパートリーが少ない。
なんだか残念なことである(シューベルトの9番というのは、現在8番とされているハ長調のものである)。
札幌市民会館にオルガンが鳴り響く
さて、144回と比べものにならないくらい私が楽しみにしていたのが、年が明けた1月の145回定期。あまりに期待して正月の雑煮も喉を通らなかったくらいだ。
新進気鋭の小泉和裕(写真を見たとき、「ショーケンみたいだ。クラシックらしくない」と思った)が指揮する、サン=サーンスの交響曲第3番、いわゆる「オルガン付き」がメイン。オルガンのない札幌市民会館でどんな方法を使うのかも興味深かった。
プログラムは写真のとおりだが、サン=サーンスの前に舘野泉との共演で演奏された、パガニーニ・ラプソディーがこれまた(薄れゆく記憶によれば)とても締まった、良い意味で若々しい切れの良い名演。
シュヴァルツ体制のもと、ドイツ系のプログラムが主体だったこのころの札響だが、私はこれを聴いて「もしかしてドイツ物以外の方が札響に合っているのではないか?」と思った(とはいえ、そのときにそこまでしっかりした思いがあったわけではない。いま思い起こしてみれば、という記述がこのシリーズには多々あることをご了承願いたい)。
その思いは、この日のメインのサン=サーンスで確信に近くなった。
最初の音からとても美しかった。
あるいは第2楽章後半(実質第4楽章)のパワフルさ。
ドイツ物の重心の低い音楽では、当時の札響ではどうしても物足りなさを感じたが、フランス物ではそのハンディが目立たない。かえって札響の持つ透明な響きが、非ドイツ系に合っている。
その点、ドイツ物でも当日の1曲目の「前奏曲と愛の死」は、これまた札響の、特に弦の美しさが堪能できた。
あなたはご存じだったかしら?
さて、プログラム・ノーツに書かれているように、オルガンはクロダトーンという電子オルガンが使われた。
10本のスピーカーがステージの奥に1列に並べられた光景は、
それだけでワクワクさせられた。
この日のプログラム・ノーツにはクロダトーンの広告も載っていたが“知る人ぞ知る”というフレーズは、確かにおっしゃる通りで、私は知る人ではなかったし、その後も名前を耳にしたことがない。
オルガンの音も、ほとんど違和感がなかった。
もちろん電子オルガンの音ではあったが、十分に満足のゆくものだった。さすがクロダトーンである。
札響を最も多く指揮している男
このころ、定期演奏会以外で、ぜひ書き残しておきたい演奏会が1つある。
“佐々木伸浩デビュー演奏会”である。
札幌生まれの佐々木はフルート奏者として1955年に群馬交響楽団に入り、61年の札響の創立と同時に札響の首席フルート奏者となった。
また、札響が啓蒙活動として市内の学校に対して行っている演奏会“札響音楽教室”の指揮者を務めていた。
1973年に札響を退団し指揮活動に専念したというから(私が札響を初めて聴いたときには、すでに首席フルート奏者は細川順三になっていた)、練習指揮者なども行なっていたのだろう。
その彼の“デビュー”コンサートが74年1月21日に行なわれた。
プログラムは、メンデルスゾーンの序曲「フィンガルの洞窟」、イベールの「ディヴェルティメント」、ブラームスの交響曲第1番。
この演奏会でも、ドイツ物ではない2曲目の「ディヴェルティメント」がすこぶる面白かった。
こういった曲を定期演奏会のプログラムにも入れると変化に富むのにと、生意気な中学生は思ったのだった。
このイベール(Jacques Ibert 1890-1962 フランス)の「室内管弦楽のためのディヴェルティメント(Divertissement pour orchestre de chambre)」(1930)は、E.M.ラビーシュの劇のための付随音楽「イタリアの麦わら帽子(Le chapeau de paille d'Italie)」(1930初演)を改編したもの。
劇は、結婚式にかぶっていく麦わら帽子を馬が食べてしまったために騒動が起こるというストーリーで、ディヴェルティメント(嬉遊曲)の方は、序曲/行列/夜想曲/ワルツ/閲兵式/終曲の6曲からなる。メンデルスゾーンの「結婚行進曲」の断片が歪んだ形で出て来るのが、当時の私にはとても印象的だった。
編成はピッコロ、フルート、クラリネット、ファゴット、コントラファゴット、ホルン、トランペット、トロンボーン、ヴァイオリン3、ヴィオラ2、チェロ2、コントラバス、ピアノ、チェレスタ、打楽器。
コンサートのあとLPを探し求めたが発見できず。
1979年の2月になってようやく玉光堂すすきの店でデッカの輸入盤を発見し“再会”できたのだった。
そしてまた、輸入盤LPが札幌で売られていることを知ったのも、このディスクによってであった。それまですすきのなんて行ったことがなかったんですもの、良い子の私は。
当時、輸入盤を扱っていたのはこの玉光堂すすきの店と、あとキクヤに、迷う込んだ子羊のように少し輸入盤があった程度だと思う。
そのLPのマルティノン/パリ音楽院管弦楽団の録音を。
大太鼓の強打は音が歪んじゃっているが、これもまた「おぉ、すごい重低音だ」と、私は嬉々としていたのであった。あぁ、セーシュン!
1960年録音。LONDON(デッカ)。
本館(~2014.6.21)入口
御多分にもれず参加中・・・
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