SaariahoTocar  2枚足りない……
 みなさんは100円ショップで売っているパンツ(トランクス)を身に着けたことがおありだろうか?


 結論から先に言おう。
 私はある。
 それも初体験はつい最近のことだ。

 体験するに至った経緯は複雑なようで単純である。


 老朽化した下着、つまりトランクスを整理したところ、残った枚数が日々のローテーションを組むには少々きついことが明らかになった。

 これは追加する必要がある。とりあえず2枚組1袋でいいだろう。
 そう思って買いに行ったことから物語は始まる。

  店の人は昭和初期型
 ここでさりげなく触れているのだが、1か月ちょっと前にマックスバリュに行ったときのこと。

 マックスバリュが入っているビルには100円ショップやドラッグストアなどとともに前時代的な衣料品店も入っている。


 衣料品店の何が前時代的かというと、店の明るさ、雑然とした陳列、いつから置かれているのか在籍年数不明な商品の数々、店員の世代と、すべてが昭和の、それも高度経済成長期あたりの匂いがするところが、である。
 その洋品店(一度通路を通ったことだけはあるが、値札に書かれている商品価格は青紫色のインクのゴム印で押された明朝体風の数字だった)に行って、トランクスを買おうと思ったのだった(こういうときに無印良品とかシマムラがあれば便利だと、人生で初めて思った)。

 もしかすると、トランクスというハイカラな用語が通じなかったり、唐草模様のサルマタぐらいしかないかもしれないという不安があったし、価格破壊と言われて久しいにもかかわらず固定相場制時代のの為替レートのように高いかもしれないという不安はあったが、怖いもの見たさということもあって行くことにした。

 それにしても、そのむかし、ローラーゲームで反則すると10ドルの罰金を払わなければならなかったのに、いまなら同じ10ドルでも日本円にして3,600円ではなく1,000円ちょっとだ。
 そのぐらいの罰金を払えばいいとなると、反則行為が横行したに違いない。ローラーゲームが廃れて何よりである。

 マックスバリュの開店は9時である(9時開店にもかかわらず、開店直後に行くと肉や野菜などがまだ並べ切れていないという、やれやれな状況になっている)。

 三文どころか一文も得したことがないにもかかわらず、私は早起きだ。

 先着30名様には粗品を進呈、という制度もないのに、私は開店と同時に建物の中に入り、まずは階段を優雅に上ってその衣料品店を目指した。

  むなしく打ち砕かれた私の売上貢献意欲

 が、階段を上がりきったところにはネットが張ってあった。
 私がごみを荒らすカラスと思われたのではない。無謀な行為に及ばない限りは人っ子ひとり入れないようになっている。

 貼り紙があった。
 生意気にも開店は10時からとなっている。

 ちぇっ!
 いろいろ考えた末にこの店を選択したというのに、縁がなかったようだ。

 そこでトランクスをあきらめ(このときノーパンデーを何曜日するか考え続けていた)、ハイボール用のグラスを求めに100円ショップに行ったわけだが、そこにトランクスが売っていたのである。

 トランクスは300円商品です、なんていう例外扱いもなく、私は216円でトランクスを2枚購入した。
 これで間違えにくいようにノーパンデーを月と木のゴミ収集日に合わせようという原案は幻と化した。


 そのあと水道の浄水器を買いに同じフロアにあるドラッグストアに寄ると、そこには2枚で780円(ぐらいだったと思う)のトランクスが売られていた。
 見るからに普通の、トップバリュ商品と同等と思われるもので、すでに百均で2枚買ってしまったものの、それにはやはり一抹の不安もあったのでドラッグストアにあるトランクスも買うことにした。

 つまりあの時の記事でトランクスを2枚買ったというのは大嘘で、実は4枚買ったのだった。

  新緑の木々の中を通り抜けるそよ風のよう
 マンションに戻りワクワクしながら袋を開けると、百均のトランクスは手触りが手を拭いても水けをはじき返してくる安手の新品のハンカチのようで、持つと羽毛のように軽い。

 一方、ドラッグストアのものは、私の直感通りふだん私の股間を守ってくれている商品と同じ質感だ。
 ただし、2枚のうち1枚(1枚目の下に重なって封入されていた方だ)は百均の商品の方がはるかに上品だと言えるくらいの妖しいバイオレット色。こんなのをちらりと見せたら、私は夜の男と間違えられてしまいそうだ。
 もっとも表側に入っていたもう1枚も、けっこう鮮やかな青緑色。色白のミドリガメが履いていても、肌の色と一体化してノーパンと間違えられそうな色合いである。


 履いてみる。

 ドラッグストアのは着用感もいつもと同じ。

 しかし百均のはとにかく軽い。
 股間から宙に浮きあがるんじゃないかと思ったほどだ。
 私が猿だったら、この看板のようにクネクネと自然と踊り始めたかもしれない。

P1180018 軽いが薄い。

 この布の下の、ホモサピエンスがもつ複雑怪奇な構造のシルエットをそのまま浮だたせるのではないかというくらい薄い。

 左の太もも側から中央を経由して右の太ももの方へと、そよ風が   を優しく撫でる。

 【問い】 下線部に適当な語を入れよ

 サーリアホ(Kaija Saariaho 1952-  フィンランド)の「風の色(Couleurs du vent)」(1998)。

 彼女の作品はいわゆる“ゲンダイオンガク”って感じのものである。
 フルート作品に名作が多いと言われており、「風の色」も独奏フルートのための曲。

SaariahoPortlait 曲についての詳しいことはわからないが、ちょっと気難しい、軽くはく、色合いでいうとあまり爽やかでない風って印象だ。

 ホイテンガ(オイテンガ)のフルートで。

 2013年録音。ONDINE。

 生地の組成を見てみると、ドラッグストアで買ったものは綿100%。一般的だ。

 しかし百均のはポリエステル100%と、引火したら瞬時にしておしりが丸焼けになるようなものだ。


 が、このまるで身に着けているのを忘れてしまいそうなスカスカ感、軽量感は、暑いときにはよいかも。

 あっ、汗でべちゃべちゃ、スケスケになっちゃうか……