
昨今のSACDプレーヤーがどんなもんかとヨドバシカメラに行った私は、老夫婦がオーディオコーナーで店員をつかまえてあーだこーだ話をしていたため、いつまで経っても自己主張することも欲望を発散することもできずにいたが、そんなときにようやく別な店員が現われたので、すっかり救世主が現れた気持ちになってしまい購買意欲はピークに達してしまった。そんなとき彼の口から出てきた言葉とは……
心のどこかでDへのお誘いを待っていたワタシ
私はYAHAMA,DENON,PIONEERの商品について事前にネットの情報を集め、分析し、そこに自分の好みも加味して、買うならばこれだろうと漠然ながらも頑なに心は決めていた。まあ、お見合い番組のようなもんだ。
だいたいにして、DENONに関しては取扱説明書をすでにダウンロードして予習していたほどだった。
しかし、店員さんは私の媚びたような態度の質問に、申し訳なさそうに、でも自信を持ってこう答えた。
「マランツですね。マランツがいいと思います」
意表を突かれるとはこういうことだ。
私はデザイナーなどではないので、真似をしただろ?と意匠について突かれた経験はないが、日々そこそこ意表は突かれている。
そんななかで今回の意外性はメガトン級であった。
「マラ……ツゥですか?」
「いいですよ、かなり」
『あなたと私でマラが、えっと、合せると、つまりは2つなわけですね。いいんですか昼間っからそんなこと言ってて』
なお『 』の部分は白日夢である。
こんなに違うの?
それはmarantzのSACDプレーヤーSA8005だった。
私はなんとなく店員さんもDENONを推してくる気がしていた。そしてYAHAMAはあまりお薦めせず、PIONEERはかなりお薦めしないと思っていたのだ。
「アンプは何をお使いですか?」
「ラックスマンです」
「スピーカーは?」
「インフィニティです」
「さすがにインフィニティはないので、クセの少ないB&Wにしましょう」
こうして、ラックスマンのアンプを使って(もちろん私が使っている昔の機種とは別なものだ)試聴させてもらうことにした。試聴したところで実際に聴くときとはまったく環境が違うのだからあくまでも参考。しかし、同一条件でプレーヤーを比較することは有益である。
にしても、「さすがにインフィニティはない」とはどういう意味なんだろう?
もうインフィニティって会社はないのだろうか?
最初にmarantzを試聴。
誰の演奏か知らないが、ベートーヴェンの交響曲第5番の冒頭部分。
確かに良い音だ。活き活きとしている。
次にDENON。
フォルテッシモの箇所で音が伸び悩む。頭から押さえつけられたように音が伸びきらないのだ。
これはこれで決して悪くないのだが、marantzの音を聴いたあとではアップアップあえいでいるように聴こえる。タクシーに乗ったバスケットボール選手のように頭が窮屈な状態。
さらにYAMAHA。
その苦しさは一層目立つ。車でDレンジのまま急な上り坂を上っているような苦しさだ。
再びmarantz。
上の音は伸びきり、低音はDENONより締まっている。音空間全体に余裕があり、音の輪郭もきちんとしている。華やかではあるが化粧でごまかしたような華やかさではない。本来CDの情報量というものは実際はかなり多いとは聞いていたが、それをを上手に引き出してくれている感じがした。
DENONの音空間を耳にした後にmarantzを聴くと、絵本を開くと、いきなりそれは飛び出す絵本だったって感じがした。
ということで、初めてDENON以外のプレーヤーを買うことにした。
そしてまた、もうすっかりPIONEER機を試聴する気が失せてしまっていたことに気づいていただけただろうか?
駆動系は大丈夫かという不安がほんのわずかあったが、marantzといえば少年時代から高級品として憧れてきたブランド。間違いはないだろう。
それに確かにこれまで使ってきたDENONで回転異常が発生したことはなかったが、読み取り異常、つまりピックアップの故障は2代にわたって経験している。いくら駆動系が良くても、ディスクを読めなくなっちゃどうにもならない。
いや、そんなことよりなにより、この音を聴いた上でDENONやYAMAHAを買ったら、会計5分後にはすでに後悔するだろう。
デザインは好きなのに、なぜアソコだけ凸?
なお、YAMAHAの機械は(今のところ私は使う予定がないが)USB-DAC機能を搭載していないので、候補に あげた段階からそこにハンディがあるかなと思っていたが、そのこと以外にも、実物を見るとディスクのトレイが浅い上に金属製で、金属なのは頼もしいが浅いのはディスクを傷つける心配がありそうに思ったし(ディスクがずれたりしてはさみこんだらアウトだろう)、何より電源スイッチが機械式。つまりブレーカーのスイッチのような構造の昔風のもの(トグルスイッチというものらしい)。
これはこれで味があるが、ヒューマンパワーでしかON/OFFができない。つまりリモコンで電源のON/OFFができない。なによりそのスイッチだけが突起しているのがいただけない。ストッキングを引っ掛けてしまって破いちゃうかもしれない(←誰が?)。
今回YAMAHAのプレーヤーを候補に入れていたのは、将来的にアンプを買い替える時にYAMAHAのものもいいかなと(音はわからないがデザイン的には)思ったからだったが、よくみるとアンプも同じ構造の電源スイッチ。YAMAHAへの思いはヒュルルルルとしぼんでしまった。
プレーヤーを換えてからいろいろとCDを聴いているが新たな感心、歓心をさせられることが多い。
さらに、チューナーをプレーヤーの上に置くのをやめた(写真)。すると、見た目の野暮ったさが少し軽減された上にますます音場の奥行きが深くなった気がする。
チューナーを撤去したのは、ペーツェルの曲ばかり聴くわけじゃあるまいし、塔のようにしているとやはり不安定な度合いが増すだろうということと、同じオーディオ仲間とはいえほとんど使わなないチューナーをそこに置いておく意味がないからだ。
チューナーはテレビラックの中に収めた。せっかく買ったホオノキの50mm角ブロックは無駄になった。
ただ、チューナーがなくなったために、もし大地震が来てスピーカーがオーディオ側に倒れたとしたら、CDプレーヤーを直撃することになる。
LP時代から、そしてCD化されて以降も何度も聴いている伊福部昭(Ifukube,Akira 1914-2006 北海道)の「SF交響ファンタジー(SF Symphonic fantasia)」(1983)初演時ライヴ。
この聴き過ぎていると言っても過言ではないCDが、実に鮮明で新鮮に鳴り響く。
いままでCDプレーヤーを入れ換えたときにもそういうことを感じたことはあったが、ここまでのことはなかった。プレーヤーのみならず、ワイヤラックからも悪い影響を受けていたのだろうか?
あぁ、アンプも換えたらどんなにすごいことになるんだろう……
神様、宝くじが当たりますように!
なお、この初演時ライヴは汐澤安彦指揮東京交響楽団による演奏。
現在、単売では手に入らないが、伊福部昭の芸術20周年記念プレミアムBOXに含まれている。
今日は夏休みである。
夏休みらしい過ごし方をする予定である。
長々とすいません。お読みいただきありがとうございます。
さて、私は「ラオス」一部分を読んでそのままになってます。いま、多崎つくるを読んでいます。