RavelDaphnisDutoit  ATRAC形式でのPC保管には抵抗感が……
 さて、CDからの音楽の取り込みの話の続きである。

 ウォークマンのサポートページを読んでいて、この期に及んで気がついてしまったことがある。


 私が持っているウォークマンの型番はNW-A866だが、おとといの記事に書いたように、XアプリでPCに取り込んだCD音源をATRAC形式で転送すると、晴れて“ギャップレス”が実現されると記載されている。


 つまりは、CDからPCに音楽を取り込むときにATRAC形式にしなければならないと思い込んでいたが、実は決してそうとは書いていないのである。

 だいたいにして、ウォークマンの機種によってATRACで転送するだの、AACで送るだの、あるいはFLACの場合もあるでよ、とトラック間で発生するギャップの解決策に違いがあるということは、音楽圧縮形式とウォークマンの機種との問題じゃなかろうか?

 うん、そんな気がしてきた。


 だからCDを取り込むときには、将来的に対応する機器があるかどうか不安なATRAC形式で読み込むシバリがあるわけではなく、AACなどで取り込んでおいて、ウォークマンに転送するときにだけATRAC形式にすれば、あてもないくせいに今後に不安を抱いている私も幸せになれるのではないか。
 それががん保険はAFRACに加入している私の生きる道のように思えてきた。


  AAC形式でも、ハードディスク上はギャップレス
 そこでPCの穴にヘッドホンを先を入れてみた。
 圧縮して書いてしまったが、この場合、穴はヘッドホン端子、先はヘッドホンのプラグと変換して解釈していただくと便利である。


 もともとすでに膨大な量になっているMP3・128kbpsで取り込んだファイルには、気持ちが盛り上がらないので見向きもせず、ギャップ問題を解決すべく取り組み始めたあとに取り込んだ、AAC・256kbpsのファイルを聴いてみた。
 くどく言うが、CDから取り込んでPCに保管されているファイルを、ヘッドホンで聴いてみたのである。


 すると、「春の祭典」も「パガニーニ・ラプソディ」も、ショスタコの交響曲第8番やハイティンク指揮の同じくショスタコの12番など、どれもまったくギャップが生じていない。CDを聴いているときと同じく、オイルを塗りたくられた肌のようにまったく引っ掻かかりなく次のトラックに移行するのである。


 ってことは、話はくどさのスパイラルに陥りつつあるが、取り込んだAAC形式のファイルは“ギャップレス”であり、ウォークマンの中に送り込まれた瞬間に、一瞬黙りこくったり、ヒックとしゃっくりをしてしまうクセを身に着けてしまうのだ。

  ウォークマンに転送するときだけATRACに
 Xアプリの設定画面をあらためて調べてみた。


 「ツール」のなかの「設定」をクリック、さらに「機器転送」をクリックするといくつかの項目が出てくるが、ここで「“ウォークマン”などのATRAC Audio Device」をクリックする。
 ふふっ、ウォークマンはあくまでATRACを基本としている姿勢がさりげなく主張されているわけだ。


a この後に出てくるのは「通常転送」か「指定転送」を選ぶメニュー。
 推奨されているのは「通常転送」であり、これは「元のファイル形式のまま転送します」というものだ。私はこれまでこちらを選んでいた。だって、メーカーが推奨していることに歯向かう度胸はないもの。

 が、SONYとしては元のPCに取り込み済みのファイル形式がATRACであるということを暗に前提としているのかもしれない。そういう前提なら、元のファイル形式(ATRAC)のままでも、ウォークマンにはATRAC形式のファイルが送り込まれるわけで、ギャップなど起こさない優等生たちが集うことになる。

 「指定転送」は「常にATRAC形式に変換して転送されます」というもの。
 (私と同じシリーズの機種で)ギャップに悩む者は、CDから素直にATRAC形式で取り込まなかった困った人々である。ギャップが生じるのはバチが当たったようなものなのだ。
 そういう人たちがギャップのない健全な日々を送りたいのなら、こちらを指定すると解決しますよ、という寛大な配慮である。


 私には、仮にUSB端子にオーディオ機器を接続し再生できるプレイヤーなどを購入した場合、ウォークマンを直接つなぐことしか頭になかった。だから対応機種が少ないATRACではだめだと思っていた。

 しかし、ウォークマンはただ“歩く人モード”のときだけの利用で、他にデータを渡すことのない使い方ならば、中に入っている音楽ファイルがオールATRAC形式でも問題ない。ギャップ問題も生じない。


b いま、私のPCに保管されている音楽はAAC形式のファイルだ。
 もし将来、USB対応プレイヤーでその音源を聴きたければ、上に書いた「“ウォークマン”などのATRAC Audio Device」ではなく「“メモリースティック”」を選び、USBメモリにファイルを「通常転送」すればよいのだ。

 終わってみれば、わかってみれば、なんてことのない話だった。

 やれやれ……

 「指定設定」で、AACで取り込んだいくつかのディスクの音源をウォークマンに転送してみた。
 ほとんど完璧と言っていいくらい、ギャップはなくなった。

 ただし、この「指定設定」をすると、もとのAAC形式のファイルのほかに、新たにATRAC形式のファイルがPCにも保管される(2つのファイルが存在することになり、ディスクの容量を圧迫する。こまめにPC上のATRACファイルを削除するしかない)。

RavelDaf2  ギャップレスを見据えた措置?

 ところで、前回この話を書いたときに、やはりギャップに悩まされているというAtsushiさんからコメントが寄せられた。

 AtsushiさんはFLAC形式で対処しているそうだ。そして、ギャップの有無のモニターにはベートーヴェンの交響曲第5番の第3楽章から第4楽章を使っているという。
 この「運命」の第4楽章は第3楽章から続けて演奏されるのである。

 みなさん(といっても、Atsushiさんのことしか知らないが)、いろいろとチェック用楽曲をもっているようだ。


 ところで、こういうことを書いていてふと思い出したが、デュトワがモントリオール交響楽団を振ったラヴェル(Maurice Ravel 1875-1937 フランス)の「ダフニスとクロエ(Daphnis et Chloe)」(1909-12)の全曲盤を買ったときのこと。
 思わず「なんじゃこりゃあと」と天井に張り付いている蛍光灯を罵ってしまった。


 というのも、短いバレエ音楽とは決して言えないのに、まったくトラック分けがされていなかったからである。

RavelDaf1 たいていは、というかほとんど例外なく、この曲のディスクはインバル盤の写真のようにトラック分けされているものだ。しかし、この輸入盤のデュトワのは、始まったら最後、55'57"の間、ずっと隙のないまま進んでいく。
 なんとかしたけりゃCDプレイヤーのフォワードボタン(早送り)かリバースボタン(巻き戻し……じゃないな)に神経を集中させながら頼るしかないのである。

 全曲を通して聴く分には問題ないが、聴きどころ、とりわけ第2組曲に選ばれている終盤の3曲をつまみ聴きしようとすると、えっらい不便なのだ(そのせいで、同じメンバーによるこの第2組曲のCDを別途購入してしまった)。


 どうしてこんなことができるのか、私にはちっとも理解できない。
 外国人にありがちな(偏見だけど)手抜きかと思うしかなかった。


 が、これってウォークマンなんかに取り込んだ時のギャップ現象に対抗するための措置だったのか?

 そうだとしたらすごい。

 でも、逆立ちしようと何しようと、不便であるという主張を曲げる気はない。


 このノートラCDはデッカの輸入盤。
 たぶん(確認はしていないが)、この録音の当時の国内盤やいま売られているタワレコ限定の盤は、きちんと場面ごとにトラック分けされていると思う。


 そう考えると、貴重な盤ではある。
 
 1980年録音。デッカ。
 なお合唱はモントリオール交響合唱団。