漢文みたいなタイトルですまん
ベートーヴェン(Ludwig van Beethoven 1770-1827 ドイツ)の歌劇「フィデリオ,または夫婦の愛(Fidelio,oder Die eheliche Liebe)」Op.72には4つの序曲(Ouverture)がある。
4つのおばちゃん、じゃなくてOuvertureの話の前にこのオペラについてだが、原作はブイイの「レオノーレ,または夫婦の愛」である(レオノーレはドイツ語読み。フランス語だとレオノール、イタリア語だとレオノーラとなる)。
レオノーレというのは物語の主役である人妻、というか(いや正しいんだけど)奥さんの名前。
誰の妻かというと、夫の名はフロレスタン。
彼は無実なのに悪い奴にはめられ政治犯として刑務所に入れられている。夫を助けるためレオノーレは男装してフィデリオと名乗り刑務所に入り込み、みごとに夫を助け出す。
だから「または夫婦の愛」なのである。
夫を裏切るアルマに爪の垢を煎じて飲ませたいくらいだ。
第1,2版のタイトルは実は「レオノーレ」
ベートーヴェンはオペラの題名を「レオノーレ」とした。
しかし、1805年11月にウィーンで行われたの初演時のタイトルは「フィデリオ」とされた。ベートーヴェンの本意ではなく劇場側の要請による変更だった。
というのも、パエール(Ferdinando Paer 1771-1839 イタリア)による「レオノーラ」がドレスデンなどで先に上演されており、劇場としてはお客さんが間違うのを避けたかったのだった。
曲名変更はベートーヴェンとしてはおもしろくなかっただろうが、加えて初演は不評。弱り目にたたり目、なきっつらに蜂って感じだ。
そして、このときに作られた序曲が現在では「レオノーレ(Leonore)」序曲第2番Op.72aと呼ばれている作品である。
不評だったからといってシュンとなってしまうベートーヴェンではない(はずだ)。
半年も経たない翌年の3月に、3幕だったものを2幕に改訂した版で再演(というか改訂版初演)。
これはそこそこの成功を収めたという。なぜ初版が失敗で改訂版が成功したのか?
最初のが長すぎたせいもあるが、何よりその1週間前にフランス軍がウィーンに侵攻してきたせいで、セレブな上客たちが街から逃げてしまったということが最大の原因らしい。不評というか、盛り上がらなかったということのようだ。
関係ない話だが、先日マチナカで“セレブ治療院”という看板を見かけた。“セフレ治療院”かと一瞬見間違った。世の中、“セレブのためのティッシュ”だの“セレブのためのオシャレな下着”だの紛らわしい表現が多すぎである(というのは考えすぎだろうか?)。
この改訂版のために書かれた序曲が現在「レオノーレ」序曲第3番Op.72bと呼ばれているものである。
幻の序曲
さらにそれに調子に乗った(かどうか知らないが)ベートーヴェンは1807年にプラハで上演するためにまた別の序曲を書いた。プラハ公演は中止になったが、そのときに作った序曲が「レオノーレ」序曲第1番Op.138ではないかと考えられている。
作られた順に素直に第1→第2→第3と番号がついていないのは、現在第1番と呼ばれている曲がかつては最初に書かれたと考えられていたから(そうじゃなかったら1番と呼ばれないわな)。
第1番はベートーヴェンの死後、遺品の中から楽譜が発見された。出版されたのが1827年だったため現在では138の作品番号がついている(ベートーヴェンのOp.番号としては最後にあたる)。
しかし出版の際に、1805年に作曲されたものと誰かが勘違いしてしまったため第1番という番号になったのだった。
最後は「フィデリオ」で作曲者も承諾
さて、「レオノーレ」序曲シリーズの3曲について書いてきたが、もう1曲ある。
それは「フィデリオ」序曲Op.72である。
ベートーヴェンは1813年からまた手直しに取りかかる。この改訂版は(つまり第3稿にあたる)1814年5月の初演は大成功を収めたという。
当初は主役の本名がオペラのタイトルであり、ベートーヴェンも「レオノーレ」というタイトルに執着していたようだが、こだわることに疲れたのか気が変わったのかはわからないが、最終改訂稿は男役のときの名前でいいやってことになったわけで(タカラジェンヌみたいね)、だから序曲も「フィデリオ」の序曲ってことになった。
「フィデリオ」序曲のOp.番号はオペラと同じ72だが、資料によっては72cとなっている場合もある。その辺はどうもスキッとしていない。
4曲の中では「フィデリオ」序曲と「レオノーレ」序曲第3番が有名だが、へそ曲がりってわけじゃないんだけど私は第1番が好きである。
なんというか、オペラの序曲らしいのである。
また最初の2作、すなわち第2番と第3番がオペラの中から素材としている場面と第1番が素材にしている場面とは異なっていて、いっちょ新しいことを試みてみようかっていうベートーヴェンの意欲的な姿勢がうかがい知れる(ような気がしないでもない)。
アーノンクール指揮ヨーロッパ室内管弦楽団の演奏で。
1996年ライヴ録音。テルデック。
で、ご安心ください。
このCDにはレオノーレの第2番も第3番もフィデリオの序曲も、あるいはほかの序曲も収録されていますので。
ありがとうございます!