
名古屋2日目の朝。
朝食は前日にコンビニで買ったおにぎり。……と、出来心で買ってしまったカップ麺。
ご当地ものである(少なくとも北海道では見かけない)。
看板に偽りなしのなかなかのお味。ただし朝からインスタントラーメンは健康的とは言い難いので半分でやめておく(こういうとき、残した物はトイレに流して処分する)。
アサイチから1時間半ほどの打ち合わせをし、空港へ。
昨日の失敗を教訓に、この日は乗車券のみを改札機に入れ、ミューチケットは胸ポケットに。
早めに空港に着いたので、早々に保安検査を終え、さて昼食はカレーを食べようとかと思いきや、羽田では当たり前のカレーショップがない。ANA FESTA と BLUE SKY 、ともにカレーがない。
あるのは焼きそばだの、スパゲティだの、タコ焼きだのだ。要するにレンジ調理できるものだけ。
1か所だけうどん(もしくはきしめん)を出している店があったが、中国か台湾か韓国かわからないが(以下、中国系と称す)そういうお客様たちでごったがえしていたので近寄らなかった。いや、近寄れなった。
結局別なANA FESTAで鮭とツナのおにぎり2個を買い、しばらく出発便がないためひと気のないゲート前でイスに座って実に地味に食べる。
食事を終えたあと自分が乗る便の出発ゲートへ。
すると、ほどなくしてアナウンスが流れた。
強引息子に鉄仮面妻
「千歳空港雪のため、安全に着陸できないと判断された場合は旭川空港または帯広空港に着陸する場合がございます。どうぞあらかじめご了承ください」
ご了承も何もそれが嫌なら乗るのをやめなってことなのだが、帯広だったら考えようによってはラッキーってことか?しっかし、行きも帰りも雪に阻まれるとは……
このように、飛行機は客を不安のどん底に突き落としたまま(といっても、中国系の人々はどこまで理解しているのかわからんけど)、25分遅れで出発(千歳上空がラッシュのため待機させられたという)。
ところで、搭乗し私が後方の通路側席(仮に69Dとしておこう。実際には小さな機種である)に座ると、行儀の悪そうな男の子が何も言わず私のひざとシートのすき間を強引に通りぬけ69Fの窓際に座った。そのあとに母親らしき女性が来て私のひざに座った、ではなく、69Eに座った(雰囲気を察して私はさっと立ち通してやったが、鉄仮面のような表情で無言だった)。
するとさらにそのあとにその旦那と思われる男がやって来て、アニャニャコニャニャとあちらの言葉をしゃべくりながら、見せてくれとお願いもしてないのに自分のチケットを私に見せた。45Aとある。
つまり替わってくれということだ。
窓際かぁ。すっごく嫌だ。
しかし私のせいで日中間(か日台間あるいは日韓間)の関係が悪化してはまずい。
私は作り笑顔で替わってやった。せっかくの家族での旅行。良い思い出を作りたまえ。
搭乗してくる客の流れに逆行して45Aに向かう際、近くにいたCAに一応は「席を替わってあげることにします」とは伝えた。これは、私は日本人であるということを示しておこうということでもあった。何となくそうした方が良いような気がしたのだ。
サラウンド!
さてそのあとが悲劇である。
替わった席の前も後ろも横も中国系なのである。団体客だ。
このあたりは彼らのテリトリー。あの母親と行儀の悪い息子の方がこの集団からたまたま離れていたのだ。
乗り込んでくる時も、荷物を入れる時も、座るときも、座ってからも、とにかくネズミの死骸を見つけたカラスの群れのようにうるさい。
そのギャアギャアが終わりそうもないので、私は勇気を奮って45Cに座っている田舎くさいオヤジに言った。
「シート チェンジ OK?」
つまり、観光客にふさわしい窓側の席と交換してやる、いや、通路側と交換していただきたいと私は申し出たのだった。
するとなぜか後ろの46Bに座っていた中年の女性が「ノープロブレム!」と叫んだ。
ワケわかんねー。
とにかくオヤジが爆竹を投げつけられたカラスのように一瞬黙っている間に、私は立って、間にいる45Bのおばはんの脚を強引に押しのけ通路側に行ったのだった。
このおばちゃん、ちゃっかり即座に窓際席に移動していた。オヤジはなぜか目はキョトンとしているのに口元はにやけていた。
取りあえず通路側は確保できた。
あとはノイズキャンセル機能を働かせたウォークマンで音楽を聴き続けるしかない。

と、よほど気の毒に思ったのだろう(そりゃそうだ、善意のせいで地獄に放り込まれたのだから)。
先ほどのCAさんが「ドアが閉まって空いた席があるようでしたらご案内いたします」と、これまた実に気の毒ですねと心から同情してくれているような表情で言ってくれた。
こんなに私の心情を察してくれるなんて、私がもっと若かったら優しさあふれる彼女にこの場でプロポーズしたかもしれない。
結果、後ろの方の席の通路側71Dに座ることができた。
しかも71Eと71Fは空席。
苦労したのが報われた快適なフライトとなった。
あのCAさんが機内販売商品を持ってきたら恩返しに何か買おうかと思ったが、それには遭遇しなかった。
ゴードン・シーウェン・チン(金希文/Gordon Shi-Wen Chin 1957- 台湾)のチェロ協奏曲第1番(2006)。
ウェン=シン・ヤンのチェロ、リュー・ショオチャ指揮の台湾フィルハーモニックによるCDの帯には次のように書かれている。
台湾を代表する現代作曲家の一人、ゴードン・チン(1957-)の作品集です。以前リリースされた「二重協奏曲」と「ファルモサの四季」(8.570221)でも、響きこそ前衛的でありながら、独特の叙情性を持つ音楽が展開されていましたが、このアルバムに収録された2つの作品も傾向は同じものであり、時として驚くほど美しい部分があったりと、興味の尽きない人であるといえるでしょう。古典的な3楽章形式を持つと見せかけて、実はそれぞれの楽章が結びついているという「チェロ協奏曲」は、各々の楽章にシェイクスピア、パスカル、サミュエル・ジョンソンの文章から取られた言葉が引用され、これらが曲の雰囲気を説明しています。
ここに書かれている通り、確かに前衛的だがはっとさせられる美しい部分がある。
が、個人的にはなかなか親しみやすくはない傾向の音楽でもある。
第2楽章には「鏡の中の夢の罠」、第3楽章には「ひどい苦痛の後に」というタイトルがついている。
2014年録音。ナクソス。
このディスク、すっごく録音が良いのも特長だ。
ところで、替わってやった69D・E・Fの親子。
後ろから見るに、フライト中も特に会話などしていなかった。
3人そろって座る意味なんてないじゃないか!