恋に落ちそう
腑抜けにされるような、でも破壊的パワーも兼ね備えていて、それでいてやっぱり飲みすぎちゃってまっすぐ歩けないみたいで、でも陶酔するのは悪くないけど、目が回るのは辛いよな、けどなんだかワタシとっても愉快なの、って音楽。
賛否両論が当然あるに違いない。
が、私はけっこう好きである。もう古くなったが、ダメよ、ダメダメ的にイヤよイヤよも好きのうちなのだ。
この捻じ曲がったような音楽に対する私の淡い恋心のようなものをいくら書いたところで、あなたも実際に聴いてみないとこの作品の魅力、もしくは魔力、あるいはどーしよーもなさはわからないだろう。
そしてまた、間違いなく言えることは、ベートーヴェンの第7交響曲を知らない人にとっては面白さはさっぱりわからないだろうし、よく知っている人なら感心するか、大笑いするか、激高するかのどれかだろう。
楽聖に対する讃美、それとも冒瀆?
ゴードン(Michael Gordon 1956- アメリカ)の「ベートーヴェンの交響曲第7番の再構築(Rewriting Beethoven's Seventh Symphony)」(2006)。
平たい言い方をすると「ベートーヴェンの交響曲第7番をもう一度書いてみた」ってことになるらしい。
ゴードンという作曲家は知らなかったが、ミニマル・ミュージックの次の世代、すなわち“ポスト・ミニマル”に位置づけられているという。
ナクソスの情報によると、
「ベートーヴェン:交響曲第7番の再構築」は、常にベートーヴェンからインスピレーションを得るというゴードンが、9曲ある交響曲の中でも最も暴力的なリズムを持つ「第7番」を再構築したもの。いつまで経っても始まらない第1楽章(らしきもの)が始まると、この現実世界がどんどん奇妙な音に侵食されていきます。確かにベートーヴェンの残滓はあるのですが…。初演時、聴衆は呆れかえったという問題作です
ということだ。
ここに収められているのは2006年にボンで行なわれたベートーヴェン音楽祭でのライヴ。同音楽祭からの委嘱で2006年に作曲された。
CDの解説には作曲者が文を寄せているので、写真を載せておく。自分で訳して再構築していただきたい。
カットなしの演奏としては世界初録音ということだが、カットした版での録音ならこれまで存在したということなのだろうか?あのころの単身赴任の生活シーンで聴いたら、どんなことになったかなぁ。
東京ぼん太を知ってますか?
ベートーヴェンの第7シンフォニーの4楽章構成と同じく、こちらは4部構成。
それぞれ、5分48秒、7分39秒、4分21秒、3分57秒という演奏時間。
アレンジではなくリライト(書き直し)なので、原曲の姿はズタズタにされた亡霊状態。それでも、4部のうち、元原稿が第1楽章の第1部と、同じく第4楽章の第4部は、中間の2つの部分よりはまだおぼろげながら元の姿がわかりやすい。
第1部なんて目を閉じて聴いていると、瞼の裏側にゆっくりと回りながら上から下へと落ちていく唐草模様が浮かぶ(私の場合)。
曲が終わった後のお客さんの反応も聞きもの。
ブーイングのようだが、喜んでいるようにも思える。
上にも書いたように、ベートーヴェンの第7交響曲を知らない人が聴いても、なにが面白いのか、ふざけてるんだか、いい加減にしろなのか、わからないのが難点。
ただ、ふつうじゃないことはわかるだろう。
だまされたと思って聴くことをお薦めする。
7割の人はだまされたと思うだろう。3割の人は良いものに巡り合ったと感動するだろう。3割といえばバッターなら高打率の成績ではないか!
が、そのうち1割の人は、孫から電話が来るまでだまされたことに気づかないだろう。
ノット指揮バンベルク交響楽団の演奏。
2006年ライヴ録音。Cantaloupe。