SchnittkeFilm2  読んで興味を持ったら聴け!読んでワケわからなかったら……聴け!
 シュニトケ(Alfred Schnittke 1934-98 ソヴィエト→ドイツ)の組曲「ワルツ(The Waltz)」(監督:V.チトフ/1969)。

 テレビ映画のための音楽で、「シュニトケ映画音楽集」のDISC2に収められている。


 はっきりいって、これもいい!それもかなり。

 メロディー良し、仕掛け良しで、シュニトケの遊び心(本人は真剣?)とテクニックにため息がでる。シンプルなようで実は凝っているのだ。


 以下の4曲からなる。


 1. The Building Site
 2. Carriage
 3. Factory
 4. Vovka


 最初に現れるワルツのテーマは既視感ならぬ既聴感があるが、それがシュニトケの別な作品にもあったメロディーなのか、それともこの曲を~2度聴いただけですっかり自分に馴染んでしまったせいなのかわからない(そういうことが気になるので、あらためて家にあるシュニトケのCDをもう一度全部聴きかえそうという気持ちになっている。いまは)。とにかく、心奪われるメロディーなのだ。

 またCD解説には、プロコフィエフ(Sergei Prokofiev 1891-1953 ソヴィエト)の交響的物語「ピーターと狼(Peter and the wolf)」Op67(1936)の、“ある朝、ピーターがおじいさんの家から牧場へと駆け出して行ったとき、庭の戸を閉め忘れました”というフレーズが書かれている(現物は英語なので‘Peter leaves the garden gate open one morning without giving a thought to the wolf’)。
 
 辞書片手に訳してみてはいないので、そこはおさぼり、曖昧なままだが、このワルツのテーマはオリジナルではなく「ピーターと狼」からの引用というように読み取れなくもない。しかし、あらためて「ピーターの狼」の該当部分を聴いてみたが、ちっともわからなかった。いったいシュニトケは、何をやらかしてくれてんだろう?


 第2曲は民族的な音色の打楽器が静かにリズムを刻むが、よく聴くとメロディーになっている。
 なんとこれはJ.シュトラウス2世(Johann Strauss Ⅱ 1825-99 オーストリア)のワルツ「ウィーンの森の物語(Geschichten aus dem Wienerwald)」Op.325(1868)ではないか!(異様に驚いてみせる私)
 そこに鐘が、さきほどの“狼”由来かもしれないシュニトケのメロディーを絡めてくる。次いでシュトラウスのメロディーがはっきりと姿を現わす。


 第3曲も打楽器によるシュトラウスのワルツで始まるが、その上にフルートによってシュニトケのメロディーがかぶってくる。その後、不協和音の大爆発が起こる。


 第4曲は、2つのワルツのメロディーが同時に進行する。全然オオカミっぽくない愛らしいメロディーと優雅なメロディーの絡み合いが見事だ。


 「ピーターと狼」のことは心の片隅に引っかかったままだが(ピーターのやつ、いったいどこに隠れやがったんだ?)、シュトラウスの引用とその扱いは、聴いていてにやけながら膝を打ちたくなるほどだ。

  ゲバゲバ、ジコジコ、ストスト、アベアベ(っ、違うか)

 このディスクには、ほかに「ピエロと子どもたち(Clowns and Children)」(監督:A.ミッタ1976)、「グラスハーモニカ(The Glass Harmonica)」(監督:A.フルジャノフスキー/1968)、「上昇(The Ascent)」(監督:L.シェピーチコ/1976)という3つの組曲も収められている。

 これらの3曲が「ワルツ」より魅力に乏しいというわけではない。
 「ワルツ」が最も耳に優しく聴きやすいので最初に取り上げたわけで、どの作品も何度も繰り返し味わいたい佳作だ。


 いずれも映画音楽から編んだもので、「グラスハーモニカ(ガラスのアコーディオン)」はアニメ映画である。また、映画「上昇」は「処刑の丘」という邦題がついているという。


 「ピエロと子どもたち」の組曲は、


 1. Title music
 2. Intermezzo
 3. Acrobats
 4. In the hospital
 5. Waltz


の5曲からなる。


 これを見る限りだと、アクロバット演技に失敗して病院に運ばれたのかしらんと想像しちゃうが……


 以前シュニトケの「エスキース」を取り上げたときに、子どものころに流行った「老人と子供のポルカ」という歌を思い起こさせると書いたが、「ピエロと子どもたち」の第1曲もそう。親しみやすがどこかほの暗い点と雰囲気が似ている。


 ところで、左卜全とひまわりキティーズとやらが歌っていた「老人と子供のポルカ」(詞・曲:早川博二)。

 「♪やめてけぇ~れゲバゲバ」というのが深く私の心に刻みこまれているが(それはリアルタイムの記憶ではなく、高校のときにどこかのクラスが合唱コンクールで歌っていたせいかもしれない)、このゲバゲバのゲバって、ウィキペディアによると学生運動(※)のことなんだそうだ。
 ジコジコのジコは交通事故、ストストはストライキ。これらのあおりを受ける被害者はいつだって老人と子供だという、世の中に対する抗議のメッセージだという。


 深い……


 知らなかった。


 第2曲はしっとりとしたワルツで、第5曲と共通する。
 第3曲はノリのいい音楽だが、アクロバットというよりは美女剣刺しマジックなんかのときに合いそうなもの。
 第4曲は悲しげだが、重篤な入院患者ってかんじではない。最後はアクセルを踏んで急加速。劇的に治ったのか?


  バッハはあまねく音楽に存在するらしいが……
 「グラスハーモニカ」は、


 1. The Musician and the Carillon
 2. Procession
 3. Faces-Flights-Pyramids
 4. The Musician-The Awakening


の4曲からなり、最初のテーマが変奏曲のように展開されていく。


 全体を通じて宗教的、バッハ的な感覚に満ちている。ここに紹介しているようにシュニトケはどんな音楽にもバッハが存在するということを語っているが、これはモロ、バッハのパクリ、ではなく、よみがえるバッハって感じだ。実際、バッハの名の音を使った B-A-C-Hの音列のモティーフが使われている。

 長大な第3曲は楽音と騒音てんこ盛り。アレルギー体質の人にとっては「シュニトケったら、また悪い癖をだしたわね」と感じることだろう。しかし、この前衛的傾向はそう長くは続かない。耳の周りにオロナインでも塗って、ちょっとの間耐えて欲しい。
 打って変わって第4曲はじつに敬虔な雰囲気。しっとりしたまま曲は閉じられる。


  悲しい旋律がエコーする
 「上昇」は、


 1. Sotnikov's Death
 2. On the Sled
 3. Remorse


の3曲からなるが、非常にシリアス、重い音楽である。

 いきなりソートニコフの死から始まるわけだが、この第1曲はこれまたシュニトケが得意とする重層的な響き。原始海のコアセルベートの憂いみたいなことを交響曲第3番のときに書いたが、それと同じような混沌とした世界である。


 第2、3曲では、第1曲の音のカオスのなかから形づくられたテーマが繰り返されるが、管楽器の呼びかけあいのような処理が印象的である。

 
 シュトローベル指揮ベルリン放送交響楽団の演奏。


 2002、2004年録音。カプリッチョ。


 ※ 投稿後、ゲバは学生用語で「暴力」「武力」と教えてくださった方がいたことを報告し、訂正いたします。