SchnittkeFilm  多様主義を平易に
 シュニトケ(Alfred Garrievich Schnittke 1934-98 ロシア→ドイツ)の「スポーツ、スポーツ、スポーツ(Sport, Sport, Sport)」(1970)と「歯科医の冒険(Adventures of Dentist)」(1965)。

 ともに同名の映画音楽から組曲に編まれたもの。
 
 何年前のことだったか記憶が貞子定かでない、どころか迷宮入りしてしまっているが、浅田真央がシュニトケの「タンゴ」を演技に使ったことがあった。

 その曲はここに書いているようにコンチェルト・グロッソ第1番」の第5楽章だが、演技で同じ箇所のメロディーを繰り返し使っているのとは違い、原曲の方は、映画「レイダース」の最後でナチスのお偉いさんの顔が一瞬にして溶け落ちるがごとく、すぐにグロテスクなものへと変貌していく。

 そんな寸止め的欲求不満のおまたあなたも、このアルバムでスッキリ。

 あの「タンゴ」のメロディーはこれら2つの組曲に含まれていないが、シュニトケの心地良い、あるいはエキサイティングな聴きやすいメロディーが続き、シュニトケ・ワールドを堪能できる。
 
  カブトムシの誘惑
 あれはお盆のことだった。
 この曲をお聴きあれ!と自称・カブトムシこと本称“ぶっちさん”がコメントを寄せて来たのは……

 シュニトケ好きのMUUSANさんにぜひオススメしなくては・・・と夜の光に吸い寄せられるカブトムシのようにやってまいりました。
 これなんですが・・・。
 以前、シュニトケの「古い様式による組曲」という作品が、あまりにも美しいと話題になったことがありますが、実はあれ、この映画音楽集の中の「歯科医の冒険」から取られたもの。そんなこんなで、へんちくりんな曲ばかりです。「スポーツ・スポーツ・スポーツ」の第4曲目なんて七転八倒の騒ぎですし・・・。

 実際のコメントでは、「これなんですが」のあとにタワレコのこのCDが紹介されているURLが載っていた。
 そして、私は誘惑に負けた。

  気難しくないシュニトケが楽しめる
 発売・販売元であるナクソス・ジャパンによると、

 当時の作曲家たちの例にもれず、シュニトケも1960年代前半から1980年代までは、とにかくサウンド・トラックを書いていました。その数およそ60作品! しかし、そのほとんどはKGBの手で葬り去られてしまい、現在では、このシュトローベル編のような、他の作曲家が編曲した物を聴くことで、当時を推測する他なくなってしまったのは残念なことです。ここに収録された2曲のサウンド・トラックはどちらも名監督エレム・クリモフの映画で、「スポーツ~」は何とも古典的な人を食った感じの曲が並びます。妙になまめかしいメヌエットや、いかにもドキュメンタリーチックな緊迫感溢れる音楽(スパイ映画にもあいそう)です。興味深い曲ばかりです。「歯科医」はもっと古典的な音楽です。フィナーレのお気楽過ぎるメロディは、逆に郷愁を誘います。

 自分が診察を受けているときに、歯科医が「ここはひとつ冒険してみっか」なんてノリで治療を始めたら勘弁だが、さて、この映画の筋は果たしてどんなものなんでしょうね?

 組曲「歯科医の冒険」はバロック期の組曲がロシアの息を吹き込まれて近代的にリニューアルされたような趣き。
 9曲からなる。
 第2曲は交響曲第1番第2楽章前半部のメロディーだが、交響曲とは異なり、楽しいメロディーを邪魔するように金管などが介入してくることはない。邪魔物におびえずに終始安心していられる。

 「スポーツ、スポーツ、スポーツ」は5曲からなる。
 ぶっちさんが書いている第4曲では、チャイコフスキーの交響曲第5番第1楽章のメロディーがストリート・ミュージック風に現われたり、「ダバダバダ」っていう有名なメロディーが出てきたり(有名なのに私は曲名を知らない)で、意表を突いてくる。

 ぶっちさんが紹介してくれたのは4枚組のシュニトケ・フィルム・ミュージック集。
 それぞれ単売もされているが、セットの方が断然お得である(ただし、単売盤はSACDハイブリッド)。
 
  ネタバレしちゃった?……
 セットについての、ナクソス・ジャパンのセールス・トークは、
 
 好きな人はすごく好きだけど、知らない人は全く知らないというシュニトケ(1934-1998)の映画音楽集。この4枚組は多彩なメロディの宝庫なのです。昨年、あるアルバムに収録された「古風な組曲」。こちらはバロック風な様式を取り込んだとても美しいもので、「シュニトケにこんな美しい作品があったとは!」と話題になったのですが、実はこの組曲はもともと「歯科医の冒険」組曲から改編されたものですし、「無名の俳優の物語」のアジタートはフィギュア・スケートでも使われたりしています。「スポーツ、スポーツ、スポーツ」でもあっと驚くような仕掛けがされていたりと、面白い曲ばかりなのです。あのショスタコーヴィチが映画音楽では見事に大衆に迎合した作品を書いていたように、シュニトケもステキな曲を書いていたのです。ぜひご一聴ください。

 というもの。

 あっ、「スポーツ、スポーツ、スポーツ」の仕掛け、書いちまった。

 上にあげた2曲ともシュトローベルの編曲による。

 シュトローベル指揮ベルリン放送交響楽団。
 2004-05年録音。カプリッチョ。