Haydn08-11Goberman  9の厚い壁
 交響曲においては“第9番”というのは鬼門である。


 いまさら言うまでもなく「第九」といえばベートーヴェンの交響曲第9番である。

 交響曲は前古典派の作曲家たち -バッハの息子たちが主たるメンバー- によって生み出されたが、それはオペラの序曲を独立した器楽作品に仕立てるという形によってであった。産まれて間もない“シンフォニア”と呼ばれるこれらの楽曲は、そのあと構成力の弱さを克服しながら交響曲へと発展していく。

 シンフォニアでは、作曲者によって通し番号がつけられているものはない(はずだ)。

 交響曲という形式を完成させたのがハイドン。
 そしてさすがこの分野での“お父っつぁん”と呼ばれるだけあって、番号付きのものだけで104曲もの交響曲を書いた。
 ちなみに交響曲の形式とはなんぞやとなると、1点だけに絞って言うなら、ソナタ形式の楽章を備えている管弦楽曲ということになる。

 交響曲をさらに進化させたのが、ハイドンと同じ古典派のモーツァルトで、第41番まで書いた。


  ベートーヴェンで頂点に
 そして交響曲の形式を完成させたのがベートーヴェン。
 番号なしの「戦争交響曲」というヘンテコリンな曲はあるものの、彼が書いた交響曲は先人と違って3楽章構成のものはなく4楽章からなり(ただし第6番「田園」は5楽章からなる)、最後の交響曲である第9番では異例の合唱団起用ということまでやってのけた。

 ちなみにこのあたりの交響曲の作曲年を時系列で書いてみると、


 ハイドンの交響曲第1番          1759
 モーツァルトの最後の交響曲・第41番    1788
 ハイドンの最後の交響曲・第104番     1795
 ベートーヴェンの交響曲第1番       1800
 ベートーヴェンの最後の交響曲・第9番   1824

となる。

 しかし、あとに続く作曲家たちが「もう交響曲でやることはないもんねぇ」といじけずに、なんとかベートーヴェンの「第九」を超えようと努力してくれたおかげで、むしろ魅力的な交響曲がたくさん残されることになった。


 と同時に、「第九」のジンクスというのも出来上がってしまった。

  あなたはジンクスを気にするタイプですか?
 それは、ベートーヴェンが交響曲を9番までしか書けなかった = 9を超えると怖~いことが起こる(ベートーヴェンは10番目の交響曲に着手したが、断片のスケッチが残されただけだった)というものだ。


 作曲家たちがそれをどのくらい気にしているか程度の差は別として、シューベルトは微妙だが、ブルックナー、マーラー、ドヴォルザーク、ヴォーン=ウィリアムズ、シュニトケなどが交響曲第9番を書いたあと(もしくは未完の状態で)亡くなっている。

 マーラーにおいては、第8番のあとに番号なしの交響曲「大地の歌」(歌曲とされることもある)を書き、交響曲第9番は実際には10番目なのだと子どもじみた逃れ方を試みたが、やっぱりだめだった。


 が、ハイドンはベートーヴェンの第九の完成なんて知らないうちに死んでいるわけで、第9なんて彼の交響曲ワークのなかでは、進度率8.65%という初期の時点のものに過ぎない。

 ハイドンと同時代に番号付き交響曲を10曲以上書いた人がいるのかどうかよくわからないが、有名人ではハイドンしかいない。ということで、ハイドンの作品こそが元祖「第九」なのである。
 どーも不毛なことを書いているようにも思うけど……


 そうそう、ショスタコーヴィチは第15番までの交響曲を残したが、それは第9番を簡素なものにしたから。……ということではないだろう。

  メヌエットでなんとなく終わってしまう
 ということで、今日はネッケの「クシコス・ポスト」
 なわけがなく、ハイドン(Franz Joseph Haydn 1732-1809 オーストリア)の交響曲第9番ハ長調Hob.Ⅰ-9(1762?)。

 3楽章構成で、楽器編成はオーボエ 2,フルート 2(第2楽章のみ),ホルン 2,弦楽。また任意でファゴット 1。

 第1楽章(Allegro molt)は、アルプスの少女が牧場(まきば)を駆け回って(しかもときおり意味もなく回転ひねりを交えながら)いるような躍動感のある音楽。
 第2楽章(Andante)は、パーマン2号がうたた寝でバナナの山に囲まれている夢をみているような幸福感あふれるもの。
 第3楽章(Menuetto, Allegretto - Trio)は、みやびな汚れのないメヌエット。メヌエット楽章が終楽章となっているところがちょいと意表をついているが、良く言えば余韻を残して、ふつうに言えば中途半端な印象を残して終わる。

 ということで、9の壁を乗り越え、本日10日に書いてみた私である。


HaydnSymsDorati 相変わらずゴバーマン/ウィーン国立歌劇場管弦楽団の演奏を。

 1960-62年録音。ソニークラシカル。

 が、なんと廃盤んんんっ!!!
 “完全生産限定盤”の看板に偽りはなかったとはいうものの……

 では、ドラティ指揮フィルハーモニア・フンガリカの全集盤をご紹介しておく。全集ってくらいだから、全104曲(+アルファ)を録音した偉業の記録である。
 ただ全部録音したというだけ記録だけではもちろんない。これまた良い演奏なのだ。ゴバーマンの演奏と比べるとスタイリッシュ。アルプスの麓ではなく、都会的で大人の気品が漂う。

 第9番の録音は1972年。デッカ。