彼にとっては店の豊富なレパートリーの氷山の一角?
夢のハイレゾ音響が実感できなかったり、CDリッピングのタグ管理の考え方がまとまらなかったりで、今後のことを思うと、気持ちは陽気で前向きだが、気分は憂うつである。
たまにはFLACだのSACDだのHDDだのAKBだのV6のことは忘れて、SOBAについて説明したい。
いやいや、そこの者、なにも構える必要はない。
SOBAとはそば。
つまり私が説明したい(言い触れ回りたい、とも言えなくもない)のは、先日の夜に初めて行った蕎麦屋のことだ。
氷山係長セレクト、伏草課長コーディネイト、オディール・ホッキー友情出演の蕎麦屋である。
池中さんと伏草課長と私-このトリオは2週間ほど前の昼にもそばを食べたのだが-は、その日大きな取引さまとの会議があり、会議に続いてお酒を飲みながらときには笑うことも許される懇談会という情報交換の場にも出席した。
こういう立食の懇談会(ossia 懇親会)の場では、暴飲暴食できるものではない(なかにはそういう人もいるが)。
日ごろ伏草課長にきちんとしたしつけをされている氷山係長は、それを察して私たちに直会(なおらい)の席をセッティングしてくれていた。
どしゃ降りの夜、左に曲がって月で食らう
その店が“月食”(仮名)という名のそば店だったのである。
月食は会議・懇談会が行なわれたビルからすぐ近くにあったのだが、どしゃ降りであったことと、伏草課長が係長から渡されて食べログの地図の上下左右・東西南北の平衡感覚を失い、迷って途方に暮れたため、本来5分でたどり着けるところを11分費やしてしまった。
このうち3分は、途中のビルの屋根のある駐車場の係のおじさんとお姉さんに道の説明を受けた時間である。
伏草課長「ちょいとお尋ねしますが、この店はどっちの方になるんでしょうか?」
おじさん「う゛っ?」
お姉さん「おじさんが前に昼を食べに行った店じゃない?」
おじさん「そうだっけ?」
お姉さん「そうだよ。あそこだよ」
おじさん「だったら……」
お姉さん「そこの角を左に曲がってすぐですよ」
と、お姉さんは腕を大きく回したあと角を指差した。それは伝統行事の舞いのようでもあり、職業柄の車の誘導のようでもあった。
この間、おじさんは話を奪われ口が半開きのままだ。
私 「美味しかったですか?」
お姉さん「私は食べたことがないからわからない」(←はぁっ?)。
(お姉さんはおじさんに向かって)「どうだった?」
おじさん「どうだったかなぁ」
伏草課長「ということは、そこの角を左に曲がればいいんですね?」
お姉さん「そっ。曲がるの」
伏草課長「すぐですか?」
お姉さん「すぐですよ」
トリオ一同「ありがとうございました」
再びビニール傘を広げ、駐車場の前の道を斜め横断し、さらに15歩進んで角に立ち、左を見るとビルの前に月食のときの月のようにほんのりと薄暗く輝く看板が見えた。
わからないときは、変な人と間違われない範囲内で聞いてみるものだ。
そしてあのお姉さんは正直者だ。
わざわざSa-Maiって書かなくてもいいんだけど……
松平頼則(Matsudaira,Yoritsune 1907-2001 東京)の「左舞(Sa-Mai)」(1958)。
名を見てもしやと思った方もいるだろうが、そのもしや、大当たり!
作曲者は徳川の血筋をひいているのである。
今日、日曜日のあなたの気分がまったりとしているか、それとも舞いあがってるのか私の知ったこっちゃないが、松平はこの曲を書いた前年には「右舞」を作曲している。
ところで、左に舞ったり右に舞ったりというのはどういうことか?
それについては、ここの早坂文雄の「左方の舞と右方の舞」の記事をご覧いただければと思う。
高関健/大阪センチュリー交響楽団の演奏で聴くことができる。
2001年録音。ナクソス。
店に行くとまだ氷山係長は来ておらず、5分後くらいにそれまで氷山課長の相手をしてあげていたオディール・ホッキ―君と一緒に店に現れた。
そういう意味では、多少路頭に迷ったぐらいでよかったのかもしれない。
銀だらの西京味噌焼きとかメンチカツとかを頼んだが、どの料理もなかなかなものだった(って、実は他に頼んだものが思い出せない。オディール君が頼んだ鯵のなめろうだかの残像は視床下部にまだぼんやりながらある)。
私は“ピリ辛肉そば”というのを頼んだが、全然ピリ辛ではなく、けっこうな辛さであった。
が、そばもつゆもなかなかのもの。辛さよ酔いで麻痺した舌にもそれはわかる。
でも、なぜシンプルに味わえるざるそばにしなかったのかと、とっても悔やまれる。
なお、味は良いが、〆で食べるにも量が少なく感じた。
昼に食べるなら大盛りにしなきゃ満足しないだろう。
ところで昨日は土用の丑の日だった。
テレビのニュースは成長著しくなく、あいもかわらず忙しそうにしているうなぎ屋の様子を放映していた。
そんなのを見ながら、私はマックスバリュで買ってきたあなごの押し寿司を食べた(言うまでもないが、写真は蓋だけである)。
5貫で298円だった。