
金曜日の夜に札幌に移動し、土曜日の午後はKitaraで札響の定期演奏会を聴き、日曜日に舞い戻ってきたわけだが、実はその前、水曜日から木曜日にかけて、私は打ち合わせのために出張で札幌に来ていた。
ならば金曜日は休みをとってそのまま滞在すればいいじゃないかと、心温かな読者の方はお考えになってくださるだろうが、金曜日はどうしても戻らなければならない仕事があったのだ(それに、歯科医院の予約もしていたし)。
水~木の移動はJRを利用。
今回は行きも帰りもスーパーとかちに乗ったが、やはりスーパーおおぞらの車両よりもサスがいい。ポイント通過時も下から突き上げるようなダイレクトなショックは少ない。
そのせいか、行きでは十勝清水あたりで車掌が検札に来たあと、私は知らず知らずのうちに天使のような表情で眠ってしまった。
気がついたときはトマム駅。
空いていたはずの前の座席に、なぜか人が座っている。
この「なぜ」を解くカギは、その間に停まったはずの新得駅にありそうだ。おそらく、この人は新得駅から乗車したに違いない。それにも気づかないほど、私は深くウトウトしていたのだろう。
目が覚めたちょうどそのとき、車内販売のお嬢さんがアイスクリームが入ったかごを手にしてやって来た。
ということは、通常のワゴンサービスは少なくとももうすでに1往復は終えている。
それにも気づかないくらい、私は美しい顔でよだれを垂らしていたのだろう。
しかし、目覚めた時も、眠りに着く前と同様、隣には人はいなかった。
“おおぞら”に比べ“とかち”の方がたいていすいている。それがまた“とかち”の魅力である。
目覚めたら横に知らない人がいた
米梶係長は日向山課長と同じマンションに住んでいる。
どうでもよい情報だが日向山課長は単身赴任中、米梶係長は生まれてこの方独身中である。
その米梶係長と喫煙室で一緒になったときに、寝不足だと嘆き、「ウソじゃないんです本当なんです」と真顔で私に窮状を訴えてきた。
夜中に目がさめた。すると、寝ている自分の頭の横に髪の長い、男か女かわからない白装束の人が座っていたというのだ。頭には、係長曰く「志村けんがおでこにつける三角の布、あるじゃないっすか?あれをつけてるんです」。
志村けんがそういう格好をしてお化けの役のコントをやっているのを見たことがあるようなないような私だが、言ってることはわかる。天冠(てんがん)と呼ばれるもののことだ。
で、係長は「『あっちいけ!』って手でどついたんすけど、相手の胸を貫通したんです」と、話を続けた。
要するに一般的にお化け、もしくは、幻影と考えられるものに見事に一致する。
あまりにも典型的なので、もしかすると係長が抱いている幽霊のイメージをそのまま夢に見たのではないかと思ったが、本人は「あれは絶対に幽霊だ」と憑依されたような目つきで語っていたので、「引っ越した方がいいんじゃないの?」と一応はアドバイスした。
が、係長は「でも、あのマンション、場所も便利で、気に入ってるんすよね」と言った。
じゃあ、がまんしなさい。
ちなみに、彼のそのマンションの部屋はメゾネットタイプなんだそうで、夜中にその階段を歩く足音が聞こえることもあるという。
これらから判断するに、本当にその部屋に何か不具合があるか、係長の夢にすぎないかとのどちらかだろう。
なお、日向山課長からはそのような報告はない。
だからマンション全体ではなく、係長が住む部屋に固有の出来事なのだ。個人的に好かれているか呪われているかのどちらかだ。
ところでどつくつもりが空振りだったあと、係長はどうしたのか?
「電気つけなかったの?」
「ええ、そのまま寝ました」
たいした男である。
私ならチキン肌のまま身動きできず、ショッカーより高い声で叫び、おしっこは垂れ流し、そのまま気絶してしまうかもしれない(その結果として、気がついたときはただおねしょしたという事実だけが残るだろう)。
でもって思うに、米梶係長が寝不足だっていうのは、きっと本人の勘違いである。
完成させれなかった「呪い」
リスト(Liszt,Franz(Ferenc) 1811-86 ハンガリー)の「呪い(Malediction)」S.121(1830頃/改訂'40頃)。
1940年頃の改訂以降も改作を続けたものの、ついぞ決定版には至らなかった、まさに呪われた(?)作品。
独奏ピアノと弦楽のための作品である。
作品について私は詳しく知らないが、楽譜の冒頭主題の箇所にリストが“呪い”と書き記しているところからこの名があるという。
激しく始まるが、全体の曲調は結構甘美だったり、明るめだったりして、水晶玉に“呪”の文字が浮き出るような恐ろしいイメージはない。
果たしてリストは、最終的にどういう姿にしたかったのだろうか?
ベロフのピアノ、マズア指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の演奏を。
1977~80年の間の録音。EMI。
でも、本当に写っていたら、それは見たくないですよね。