LisztPfconBIRET  巧みな言葉に乗せられて……
 “気持ちよいまでの音の炸裂、破壊的なエネルギー。やっぱリストってすごいじゃん”
 “爆演系が好きな人にぜひオススメ”
 “笑ってしまうくらいに「すごい」死の舞踏の冒頭もぜひ”


 こう書かれて、購買意欲をそそられないクラシック音楽ファンが、果たしているだろうか?もし、何も感じないならEDさえ疑われる。

 これは、イディル・ビレットのピアノ独奏、タバコフ/ビルケント交響楽団によるリスト(Liszt,Franz ハンガリー 1811-86)のピアノ協奏作品集の帯に書かれている魅惑の言葉だ。

 “IBA”と表記されているが、これはIdil Biret Archiveの略。新規に設立したレーベルらしい。販売しているのはナクソス。


 にしても、ナクソスの謳い文句には、過去に「やられたぁ~」という経験をしたことがある。1度ならず2度までも、何回も3回も……

 「えぇ?ほんとうかなぁ~?」と疑いながらも、「こんなに誘ってくれてるのに、がまんするなんて男がすたる。こりゃぜひとも聴いてみなきゃなるまい」と、迷いが決断に変わるまでさほど時間は要しない。

 そして実際に聴いてみると。「確かに書かれているとおりだ。けど、どこか何かが違う。えっ、アタシ、やられたぁ~ってこと?」と、正露丸を噛んだときのような苦い思いをすることも、これまでの失恋回数並みに多い(当人比)。

 迷ったままにしておけば、やがてあの囁きを忘れられただろうに、とちょっぴり後悔。
 いやいや、人生の限られた時間、できる限りいろんな曲、演奏を知るべきだと、自分に都合いいように合理化したりもする。
 それにしても、文章を考えているナクソス・ジャパンの人はなかなかやり手だ。巧い。音楽ファンの心理を熟知しているのではないか?
 転職したとしても、羽毛布団なんかをけっこう売りさばけそうだ(褒めてるんです)。

  笑えるどころか凍りつくような迫力
 今日はこのCDの中から「死の舞踏(Totemtanz)」S.126(1838企画,1849完成./改訂1853,'59)。
 グレゴリオ聖歌の「怒りの日(Dies Irae)」によるパラフレーズ(原曲の自由な演奏、メロディーの装飾)である。


 「怒りの日」の旋律は多くの作曲家を魅了してきた。
 有名どころでは、ベルリオーズの幻想交響曲マーラーの「復活」ラフマニノフのパガニーニ・ラプソディでそれを聴くことができる。また、サン=サーンスはリストと同名の「死の舞踏」で「怒りの日」を用いている。他にも多くの例がある。


 リストの「死の舞踏」では、冒頭から金管で「怒りの日」がモロな形で奏される。

 そして、この演奏、看板に偽りなしだ。
 爆演である。が、単に爆発しているのではなく、きちんとした力演である。
 笑ってしまいはしなかったが、確かに「すごい」開始だ。
 この刺激的な「死の舞踏」は、「アタリ!」だ。


 ピアノ協奏曲についてはあらためて取り上げるが、「死の舞踏」でワクワクしたのはこの演奏が初めてだ。
 2007年録音。


 なお、ビレットは1941年生まれのトルコのピアニスト。レパートリーも広い、なかなかな実力の持ち主らしい。
 その表現力とテクニックは、このCDでもよくわかる。
 他の録音も聴いてみたいと、けっこう魅かれつつある私がここにいる。